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株式会社COTENの深井龍之介氏と日経x womanの内田久貴氏によるクロストークイベント「インクルーシブな社会の実現のために社会・組織に必要なこととは?」開催レポート【後編】

7月12日(水)、FLAT BASEで株式会社COTEN代表の深井龍之介氏と日経x womanオーディエンスエンゲージメント長の内田久貴氏によるクロストークイベントが開催されました。

「インクルーシブな社会の実現のために社会・組織に必要なこととは?」をテーマに、子育て世代の女性の働く環境や働きやすい社会・組織についてなどについて、フランクな雰囲気の中、お互いの考えを話しました。

※こちらのページは開催レポート後編です。前編もあわせてお読みください。

▶︎前編はこちらから

地域のコミュニティーの中での子育て

熊本:それでいうと内田さんも共働きでお子さんを育て上げていますよね。その辺もお伺いさせてください。

内田:うちは現在、長男が大学を卒業して、次男は大学生です。妻は同い年で独立行政法人で課長をやっているのですが、新入社員が入ってくるとよく研修に呼ばれて話をする、ロールモデル的な存在になっているそうです。イクメンという言葉がない時代に、私自身もよく保育園に送り迎えをしたり、小学校の父母会も会社を休んで行ったり、いろいろな行事に参加していました。

PTAの広報担当になってドキドキしていたら、ひたすら資料を折る作業をすることになったり、そういった面白いコミュニティを体験できたので良かったなと思うのですが、私も核家族では厳しいなと思っています。当時、親にも時々来てもらってはいたのですが、それ以上に大きかったのがマンションのご近所さんに恵まれていたことです。新築でマンションを購入したのですが、そのぐらいの時期に購入する人は大体子育て期で、似たような年代の人が多かったです。

夫婦で鍵を持ったままで出かけてしまったことがあったのですが、次男が少年野球から帰ってきたときに鍵がないことに気づき、隣の中嶋さん家に行って、おやつまでご馳走になって待っていたこともありました。塾の送り迎えも、専業主婦だった同じマンションに住んでいる方が送ってくれていました。地域とのコミュニティが大事ということを、改めてその時学びました。マンションやURもそうなのでしょうが、子育てしやすい住宅として売っているのは、やはり一つの大きな勝機だと思います。

現在は共働きが増えていて、世帯年収のある方を取り込むという企業努力としてすごく真っ当なことをしているなという実感があるので、何か新しいものが広がっていけば、良い方向に行くのでないのかなと思います。あと、先ほど会社の中に社長直轄の諮問機関を作るとおっしゃっていましたが、我々日経x womanはBtoBの仕事もやっていて、さまざまな企業ともやりとりしています。その時にやりとりする部署は大体人事部か経営企画室なのですが、経営企画室は社長直轄の部署なのでお金を動かしやすい。人事部はあまりお金を持っていないので、経営企画室がこれからどんどんジェンダー平等を含めて知恵を働かせてやってくれるのではないかなと思います。

経営企画室がない大企業も多いと思うのですが、資生堂やアフラックなど、そういった先端企業を見習って、経営企画室がアンテナ張って新しい施策を練っていく。そして、お金もある程度持っていって外部との知恵をちゃんと貪欲に拾っていくという動きになればいいと思っています。おそらく20年〜30年前には経営企画室自体があまりなかったのですが、現在は増えてきています。そういう実績を残している事実があるのをみんな分かってきているので、今のリスキリングブームも経営企画室が主導して、どんどん企業に持っていかないとと思っています。人事部主導だと、どうしても社内で何とかできないかと上に言われて、お金ないのでできそうな人をボランティアで集めてやってしまう。それだと大きくなっていかない組織になってしまうので、部署を指導してやってくれると新しいものが生まれるのではないのかなと思います。

熊本:私も上の子の時は、保育園のママ友と連携していて、今日は残業しないといけないという時は、そのまま保育園で引き取って一緒に帰って夜ご飯食べさせておくよとか、お風呂に入れといてあげるよとか、そういうのは結構あって。保育園の時のママ友たちにはすごく助けられたというのはありましたね。

内田:そういう意味でいうと、うちはニンテンドーDSなどのゲームを最後まで持たせなかったのですね。それでちゃんといい子が育ったのですけど(笑)。それ以上に重要視したのは、人とのコミュニケーションです。人は人でしか成長しないと思っているので、お泊まり会もたくさん開催したり、家族旅行に行った時もわざとユースホステルに泊まったりしていました。そこでは、兄ちゃんやおじさんも泊まっていて、ミーティングルームみたいな中でコミュニケーションをしないといけない状況になるじゃないですか。小さい子がいるといじられるので、そういうのを面白がってくれるというか、家族で時間を潰すのではなくて、他人を巻き込んでその中で楽しく過ごすという習慣がついたのがすごく良かったなと思っています。

ちょうど一昨日、次男がうちのそういう旅行スタイルが俺は好きだった、ゲームをするよりもずっと良かった、面白かったと言ってくれたので、改めて良かったなと思いました。

小さい時は変な塾に行くよりも、そういった隣近所を巻き込めば、嫌な経験もするかもしれないけれど、それも跳ね除ける能力を身につけられると思うので、できるだけいろんな人と接することは大事だなと思います。

熊本:深井さんはどうですか。

深井:僕も自分一人で育てるのは厳しいなと思っています。実は発達障害者向けの保育園のような施設を10ヶ所ほど作ったことがあります。僕自身が発達障害でもあるのですが、いろんな保護者と子ども達を見ていく中で、発達が早い子と遅い子がいる。科学的エビデンスがあるかどうかは分かりませんが、僕が実感している中で早い子の特徴として、いろんな人と関わっているというのが分かってきました。遅い子はずっとお母さんとしか一緒にいないという傾向も実際に出てきているのですよね。いろんな大人と関われていた方がいいんだなというのは、その時から何となく思っています。だからこそ、先ほどおっしゃったみたいにいろんな人に育ててもらう環境を作りたいなと思っているのですが、現実的にどうやって作るのかが問題で。たまたま隣がいい人だったらいけるかもしれないけれど、すごく嫌な人かもしれない。

僕は島根県の出雲市出身なのですが、高校の先輩がコミュニティーナースという会社を作っていて。みんなで相互扶助をするというのを地域でやっている会社です。先輩はコミュニティーをポンッと作って、何か相互に助け合うような環境を作れる人なのですが、それに必要なお金は僕が調達してくるから、故郷の出雲と僕の住んでいる福岡市のどっちともでその環境を作って欲しいという話をしています。そうすると、例えば僕が出雲に子供と一緒に出張にいくと、妻はその間一人を謳歌できて、僕が出雲で仕事している間に子供を見てもらうとかができるんですよね。それが現実的に可能なんです。それを今構想して、実現させようとしています。それが実現すれば、自分はそれで何とかなるのですけど、さらにもう少し広げていけば社員だとか、知り合いの人たちもその輪に入れるなど、そういうことをやろうとしています。

地域コミュニティなどは個人的にはすごく苦手なのですが、先輩がやっている活動は僕がギリギリ入れそうな感じがなんです。得意なことで貢献しておけば、大丈夫な感じがあって、僕が無愛想でもいいし、みんなと別に何か分かりやすく仲良くしなくていい。そこに希望を見いだしています。

内田:地域のコミュニティマネージャーみたいな人が要所にいるので、その人を中心に「この人がコミュニティマネージャーです」と旗立ててやるのが良いと思っています。それって民生委員みたいなものだと思っていて。自治体がやっている民生委員の人に泣きつけば保育園になんとか入れましたとかそういう話があったくらいで。

話のわかるご近所さんをコミュニティーマネージャーとして、それを会社組織にして、コミュニティマネージャーの会社をいっぱい作って、それを中心にちっちゃい子もお年寄りもケアして、最後はみんなで何とかするという。そういう法人があちこちにできると、それはそれでお金にもなると思います。今世帯年収が上がっている時代なので、お金出すからなんとかしてという人はすごく多いと思うので。それはアイデアとしてすごく有益だし、それをシステム化して横展開すれば、それこそ何かいろんなややこしい問題が解決しそうですよね。

深井:そうなんですよ。宣伝みたいなるけれど、コミュニティナースはマンション単位でもできるらしくて、僕は出雲でしか見たことないのですが、マンションにコミュニティマネージャーみたいな人がいて、そのマンション全体が相互扶助しあうようになるという、そういう形なんです。派遣された場所をコミュニティにしちゃうみたいな特殊能力をもった人たちを抱えていて、その人たちを派遣して、そこをコミュニティ化しちゃうみたいな。それに希望を見出していて、会社がそこにお金を払うというのも現実的にはアリだなぁと思っています。

内田:子ども食堂はあちこちで出来つつあって、自治体が応援したり、しなかったりってあるじゃないですか。それとの融合というか、コミュニティも子ども食堂融合型とか、食事はないけれどコミュニティみたいな。何かそういういくつかのパターンでやればすごい画としてはわかりやすいですよね。

深井:コミュニティナースはナースでもあったりするので、病児保育ができるんですよ。

内田:それは最強ですね。

熊本:それすごく良いですね。

深井:めちゃくちゃ強いですよね。おじいちゃんおばあちゃんも診ることができて、都会に住んでいる息子や娘に今日はおじいちゃんの様子こんな感じだったよと教えてくれる。

〜ここで参加者の中でコミュニティーマネージャーをやられている方にコミュニティについて話を聞くことに〜

熊本:せっかくなので参加者の中でコミュニティーマネージャーをやられている方にも現状を聞いてみましょう。

NEWSPICKSコミュニティマネジャー:コミュニティづくりって簡単ではなくて。コミュニティが大事だと旗を立てて、いかにそれに賛同してくれる人を集めるかということがキモですね。コミュニティマネージャーひとりがすごく手を動かしてお世話焼きをしても、コミュニティは終わらない。きちんと旗を立てて、ルールメイクして。そうするとみんなが互助共助できるよということをいかに信じてもらえるか、みたいなことですね。宗教に似ていると思うのですが、旗を立てて教典を作って、それをいかに流布させていくかっていうことが、コミュニティマネージャーかなと思っています。

1つだけ、お話を聞いていて少しだけ腑に落ちないというか合点が言っていないことがあるのですが、仕事と家庭はやはりコンフリクトしちゃうのかっていうところです。私は今コンフリクトしてしまっているのですが、コンフリクトしない社会というのが、ないのかな?と思っていて、そうでないと両立できないかなと思っていて。

深井:僕が言っているコンフリクトは時間ですね。子供を見ている間は仕事ができないとか、そういった時間が発生してしまうということです。あと、病気になると仕事を休んで、子供を見ないといけないという時間のコンフリクトが発生していますよね。その時間のコンフリクトが、先ほど言ったコミュニティ状態だと隣に子供がいて、それを見ている家族ではない人もみていて、自分は仕事をすることが可能じゃないですか。

こういう意味でコンフリクトがコンフリクトじゃない状態になるよねということを言っているので、マインドの中でコンフリクトしていないとか、そういうことはありえると思うのですが、まず時間がやっぱりどうしても難しい。だから育休みたいになるよねという。

NEWSPICKコミュニティマネジャー:ものすごく働く時間を短くするみたいなことだと解決できないものですか?

深井:それは個人差がありますよね。要は短くしたい人もいれば、したくないっていう人もいると思うんですよね。どちらとも選択できるっていうのが男女限らず大事だと思っています。

管理職やリーダーになりたい女性の実情

内田:読者アンケートがデータとして面白いので、ご紹介させていただきます。

女性に「管理職やリーダーになりたいですか」というアンケートを取ったのですが、過去に思っていた人も含めて、やりたい人とやりたくない人が半々なのです。やりたいと思っている人の方が多いのかなと思っていたのですが、半数以上の人はやりたくないと思っている。

まず、やりたいと答えた人は「権限や裁量を持って働きたい」という理由が一位。次は「今より収入が上がるため」「責任のある仕事がしたいため」という感じです。これは男性に聞いても全く同じような回答が来るでしょう。次に、「あなたのいる組織は女性管理職がリーダーとして働きやすいと思いますか」という質問の回答も、働きやすいと思わないからやりたくないということと直結していると思うのですが、やはり半々なんです。

次に、あなたのいる組織で女性管理職がリーダーとして働きやすいと思わない理由は何ですか?というのを聞いたのですが、「管理職の男性比率が高すぎる」が一番。その次は「女性のロールモデルが少ない」。とにかく男が多すぎることが問題意識としてあるということなんですよね。

次に「女性管理職やリーダーを増やすために組織は何をすべきだと思いますか」という質問をしました。これまで、3番目の「管理職研修や勉強の機会を増やす」や「メンター制度、スポンサーシップ制度」、「社内に女性のネットワークを作る」などを企業が一生懸命やっていたのですが、実はこういうことではなかったというのが結果で分かりました。

1番が「トップ経営層の意識を変革する」、「男性管理職の意識を変革する」ということです。意識を変えるだけなら無料でできるし、いますぐ意識変えなさいよという感じになるのですが、これが本当にアンコンシャスバイアスと言うか、男が集まることによってできる空気感を変えなくてはいけないというところです。

無意識に男子校の部室状態になる、オールド・ボーイズ・ネットワークという特集をNHKでやっていたのですが、男が集まって無意識に発する言葉でみんなやる気をなくしたり、少しおかしいんじゃないのみたいなことが起こるということを、私を含めてですが、各企業の男性従業員が意識しないといけない。

そういう気づきの場を作っていく研修は、これから必要になるのではないかなと思っています。両立の知恵ではなく、今求められているのはオールド・ボーイズ・ネットワークを止めることだということを。居酒屋でばっかり物事決めるなだとか、ゴルフをできないやつは出世できないとかじゃないんだよとか、喫煙ルームで決めた企画をアサインにするなとか、何かこう閉じられたなかなかニュートラルじゃない場で決まる決定事を言われたりされたり、するのは非常に不快で、それが人のモチベーションを下げるということを改めて言い続けないといけない。

それは男女関係なくよろしくないと思っているので、これからのフェーズはそういう社会になっていくべきだと思います。オールド・ボーイズ・ネットワークを解体していく研修をどんどんやるべきじゃないのかなとは個人的に声を大にして言い続けています。なかなか難しいですが、実現に向けて頑張っていきたいと思っています。

株式会社COTENとして取り組んでいきたいこと

深井:会社の基本スタンスとしては、人文知を使って、メタ認知でクリティカルシンキングをしていきたいので、各株式会社が政治的なアプローチをしながら、それが仮に動かなかったとしてもこの状態見て先に進められるように一緒に取り組んでいきたいなと思っています。先ほど、僕は人文知のインテリジェンス機関を社内に作った方が良いと言ったのですが、このインクルーシブに限らずだと思っています。

パーパス経営でもESGでも、あらゆるところで機能すると思っているのですが、実は数年ぐらい前に哲学者を顧問に採用するというのが一瞬流行ったことがあって、失敗したようなんですね。

僕の中で確かになぁと思っているのが、哲学者とか専門家なので使う側にリテラシーが求められるところがあるなと思っているんですね。例えば、全くエンジニアリテラシーのない会社がエンジニアを採用したり、外注でアプリケーション開発しても結構失敗しがちみたいな話と一緒だと思っています。なので、株式会社が人文知のリテラシーをちょっとずつ付けつつ、そういう部署を社内に生成して、そこにアドバイザーとして、フィロソフィストみたいな人たちをつけていくみたいなのは、現実的に可能だと思っているので、すごく間接的に見えるかもしれないけど、そういうところの支援をやっていくことが、実際に経営者にクリティカルな決断をさせるのに、結構ダイレクトに響くかなとは思っているんですよね。

こういうところって、あんまり段階踏む必要がない領域だなと思っていて、さっき言ったみたいに極端な例で、これ以上の役職の人たちに対して、男性でも女性でも生活コストをこういう風に払いますみたいな話とかって、やろうと思ったらできるんじゃないですか。

どういう例でもいいんですが、そういうのをさっき言ったみたいな何か歴史とか他の国の状況とか調べた上で決断するみたいな流れはCOTENとしては作っていきたいなと思っていますね。要は欧米がこれやっているからやるとかじゃなくて、自分達でポリシーを持って欧米がやっていることを100%輸入してきたことって日本の歴史に一回もないんですね。他の国は輸入していないので輸入しているだけってすごい国だなと思っているんですけど、輸入を失敗してるわけなので、社会的パフォーマンスをだしたり、世界に真似されていることって、基本的に日本のオリジナリティを生かしているやつなんですよね。

なので、この領域における日本のオリジナリティを生かしたバージョンっていうのが、一体何があるのか、とかはかなり考えないと分かんないじゃないですか。

そういうのをインテリジェンス機関を作って、考えて決断していくというのは一年以内にやっていくということは、できそうだなと思っているので、有志の人たちと一緒にそういうのをやっていきたいなって思っているんですよね。部署自体は社員で内製化した方がいいと思うんですが、それを作り上げるところとかは結構サポートできるという感覚があって、人文知の部署を作ってリテラシーを実装するまでのところとかは橋渡しとしてできるかなと思っていて、そこら辺をやると結構色々良くなるのでは?感覚があります。

企業同士のネットワーキングの可能性

内田:一対一で大企業とベンチャーを繋ぐというアイデアはないのですが、我々もコミュニティマネージャーというか、企業さんを集めて勉強会を開いたり、エンパワーメントプロジェクトのように企業を集めて、今何が問題なのかということを課題に出し合いながら、解決策を話し合うミーティングを定期的に開催しています。1社で問題解決できないことが、本当に増えているんじゃないのかなという実感はあります。似たようなことを挑戦している企業同士で、上の階層も下の階層も問題を洗い出しながら、解決していくのがいいと思います。今ほど、横の繋がりを求められていることはないのではないのかなという気がしていますね。

それがベンチャー同士なのか、大企業同士なのか、ベンチャーと大企業なのか、いろんな掛け算をすることで、解決策や新しい糸口が出てきそうですよね。

先ほどの資生堂やアフラックでも、他業種のジェンダー担当者同士で情報共有をして、他社にロールモデルを見つけ出すような研修をしたり、自社にロールモデルがいない場合は、他社との交流の中で、他社のロールモデルを参考にして解決することがすごく多いことが実際いろんな研修を開催してみて実感しています。女性役員比率が高い企業と、大企業でなかなかみんなやりたがらないという古い製造業の会社がマッチングし研修することによって、背中を押すような機会というのも一気に増えるような気がしています。

特にベンチャーなどの新しい企業は、最初から女性役員がいることが多いので、そういうところこそネットワーキングしていくと、新しい道が開けるのではないかなとは思いました。